| LOST PRINCE 「死を意識するなんて何度目だろう?」 スラムで育った少年フェリオは、腕の中で冷たくなってゆく少女を抱きしめながら、そう思う。 豪胆な女性マーシエとの出会いが、 スラムの孤児であったフェリオの運命を大きく変える。 |
| 2 自室に戻ったフェリオは、ジョアンに着替えを手伝ってもらいながら、何気なく聞いてみた。 「ジョアンさん。デスティン王子っていう人は、一体どんな人なんですか? 僕、全然知らなくて。あっ、孤児狩りをしてるっていうのは知ってます。僕も何度かデスティン軍の兵士に追いかけられたから」 ジョアンはフェリオのシャツのボタンを外しながら、ゆっくり口を開く。 「力で全ての事を仕切ろうとなさる暴君だと聞き及んでおります」 「だから孤児狩りなんてするんだ」 「ええ、おそらくは。弱者を良しとしない厳しいお方です」 孤児狩りに追いかけられた過去を思い出し、フェリオは身震いした。 「連れて行かれた孤児はどうなっちゃったんだろう? 僕も友達のオリバーって子が連れて行かれて……」 「……風の噂ですが、デスティン殿下の新しい剣の試し斬りに、隷属となった者や孤児たちが使われていると聞いた事があります」 従順なるメイドは言いにくそうに、残酷な話を口にする。仮初(かりそめ)の王子は目を丸くし、息を飲んだ。 「じゃあ……もう会えないのかな? 殺されちゃったのかな?」 「期待は持たない方が、真実を知った時、心の負担は軽くなります」 「そう……だね……」 しゅんと表情を曇らせ、フェリオはジョアンに着替えを手伝ってもらう。細身のズボンを履きながら、フェリオは別の質問をしてみた。 「オーベル王子はどうして負けたの?」 「兵力は均衡しておりましたが、小休止中に騙し打ちにあい、隙を突かれたと聞いております。本来ならばオーベル殿下の魔術の力は、デスティン殿下に引けをとらないはずですので」 こくりと頷き、フェリオは新しいシャツに腕を通す。ジョアンが手助けし、シャツのボタンを留めていく。 その時だ。部屋の扉がノックされ、フェリオは身を竦めた。ジョアンが待ってくださいと視線で合図し、扉へ向かう。 「ただいま着替えの最中です。もう少しお待ちください」 「そうか。ぜひ殿下と話をしておきたかったのだが、ここで待っても良いか?」 「お伺い致しますので、少々お待ちを」 声からしてヘインだろう。先ほどまで決起会を仕切っていたその足でやってきたと推測される。 「ヘインさんですか?」 「ええ。お話があるとの事です。よろしいですか?」 「うん。大丈夫だよ」 ジョアンは頷き、部屋の外でヘインを待たせる事にしたようだ。そのままいそいそと戻ってきて、フェリオの着替えの手を急ぐ。 フェリオはまだ若干、ヘインに畏怖を覚えている。彼が兵士であり、大人だからだ。スラムの孤児として暮らしていた頃のトラウマは、そう簡単には消えない。 しかしオーベルとマーシエという、自分の命を狙う者が現れたせいで、頼れる味方を増やしたいとも考えていた。ここにいて味方に成り得る人物は、消去法でジョアンとヘインしかいない。アスレイはスラムの孤児と、こちらを小莫迦にして中立の立場を取るだろう。下手をすれば、オーベルの教育係だったという事で、敵になるかもしれない。 懸命に思考を巡らせ、味方に成り得る人物を絞り込んだ結果がこの人選だった。 「終わりました。ヘイン騎士長をお呼びしてまいります」 ジョアンはヘインを室内へ招き入れ、自分は扉付近でじっと立っている。退室しないのは、万が一の際にフェリオを守るためだと容易に察しできた。彼女の親身と献身に、フェリオは胸が熱くなった。 |
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